連載第5回 「民間療法で症状悪化」
読売新聞の「医療と介護」覧の中の「医療ルネサンス」にて、2006年2月14日~18日までの5回、脊柱側弯症に関する記事が連載されました。当時掲載された「医療ルネサンス」からの転載記事です
医療ルネッサンス
側わん症の治療について意見を交わす鈴木信正さん(左)とランディー・ベッツさん(京都市内のホテルで)
脊柱(せきちゅう)側わん症は、早期に見つけて、適切な時期に治療を始めることが、変形を小さく抑えるには重要だ。そのために、背骨の検診が学校保健法に盛り込まれており、治療では、装具の改良や手術法も進んできた。
ところが、整形外科医らは「悪化してから受診する患者が増えている」と声を合わせる。医療事故の続発などで高まる医療不信を背景に、民間療法を頼って悪化させるケースが後を絶たないようだ。
東京都内のD子さん(18)は、中学2年でわん曲が55度まで進み、手術を勧められた。「なるべく傷が残らず、安全な手術を」と願い、複数の病院を回った。
そんな時、母親が知人から紹介されたのが、カイロプラクティック治療院。「絶対治る。病院は行かなくていい」と言われ、「手術をせずに済むのなら」と、1年通い続けた結果、悪化させてしまった。
わん曲が45度を超えると手術が検討される。しかし、手術を避けたい気持ちから民間療法を頼り、症状を悪化させる例が、1990年代のアメリカで も続出した。当時、カイロやマッサージ、ビタミン剤などで側わん症が治ると宣伝され、手術しか道がない重度の患者と家族が飛びついた。
側わん症の調査・研究活動を行う国際学会「側わん症研究会(SRS)」の前会長で整形外科医のランディー・ベッツさんは「カイロなどの民間療法は、わん曲が20度以上で、ねじれを伴う側わん症には全く効果がない」と話す。
アメリカでは、民間療法の広がりを契機に、側わん症研究会や患者会が、インターネットなどで正しい知識の普及に努めるようになった。
日本でも、東京都済生会中央病院整形外科顧問の鈴木信正さんの患者が組織した「あやめの会」は、ホームページで会員の治療体験などを紹介している。
「民間療法で取り返しの付かない2年間を過ごしてしまった」など、切実な声を掲載。患者の母親は「会員の声を聞き、親の過ちで娘が危うく不幸になるところを救われました」と感謝の言葉を寄せる。
医師の不適切な対応が患者を民間療法に追いやる場合もある。カイロをやめ、先月手術を受けたD子さんは「以前の病院では診察時間が短く、手術がなぜ必要なのか、きちんとした説明がなかった」と振り返る。
また、「成長期を過ぎれば悪化は止まる」など、正確ではない古い知識を医師から教えられた重度の患者も少なくない。
親も敏感に反応する子供の病気だけに、医師は細やかな配慮を持って、正確な知識をわかりやすく伝える努力を惜しまないでほしい。(佐藤光展)
脊柱側わん症の情報 「あやめの会」(http://www.sokuwan.gr.jp)では、定期的に親ぼく会を開催。「日本側彎(そくわん)症学会」のサイト(http://www.sokuwan.jp)では、学会所属の医師の名や勤務先を確認できる。