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脊柱側弯症の話 - 装具治療が必要な方々のために (B-10 装具装用の実際)

あやめの会 会報2号(平成5年発行)に掲載された寄稿より

脊柱側弯症の話 - 装具治療が必要な方々のために


東京都済生会中央病院 整形外科部長 鈴木信正

B-10 装具装用の実際

(1) 装用時間

 およそ16~17歳位までは23時間装用することが原則です。毎日、寝ている時もつけて、入浴時以外は常に装具をつけます。そしてどうしても外さなくてはいけない時(それはマット運動、鉄棒、水泳をする時)は、外して差支えありません。どうしても嫌で学校につけて行かないという方の場合にやむをえず16時間装用とする場合もあります。しかしながら、非常な危険な年齢の時、すなわち側弯が進みたくて進みたくてしょうがない状況のときに部分装用では、進行する危険は増えます。そういう時は23時間が原則なんだぞと、いうふうにお考えいただきたいと思います。原則的には、発育が終わるまでは23時間装用、どうしても嫌がったなら少なくとも12~16時間はつけなさい、ということです。よく装具を夜だけつけることが行われますが、成長期では単なる気休めで、まったく効果がありません。成長が終わる16~17歳以後は、1日16時間の部分装用とし、18歳まで続けた後、装具療法を卒業とします。

 部分装用には2通りあって、朝、起きたらつける。そして夜、寝る前にはずす、というつけかたが1つ。もう-つは学校から帰ってきたらすぐつけて、翌朝、学校に行く時にはずすという着け方です。どちらかというと、装具をつけて運動をしている方がいいのですが、学校につけて行くのを皆、嫌がるので現実的には、学校から帰って来てからつけるという方がほとんどです。部分装用の場合、少なくとも12時間以上つけるのが、原則ですから気をつけなけれはいけません。

(2)装具と体操

通常の体育の授業は少しゆるめて良いから、装具をつけたまま受けていただきたい。装具をつけて、矯正位で暴れて、筋肉を強くしていく、自然な形で強くしていくことが大切です。装具療法でこれが大事ですよという事は、装具をつけたままよく運動することです。装具を壊す位に暴れる方は、装具療法に非常に良く反応します。大きく呼吸をする事によって肋骨隆起に対する矯正力が働きます。だから装具をつけての深呼吸を勧めます。また、装具を外して大きく深呼吸をする事は肋間筋の柔軟性を保つ事になりますから、それも必要です。それから腹筋訓練をします。装具療法を補う意味での体操は深呼吸と腹筋訓練で十分です。複雑な体操療法をしても無意味です。複雑な事を言ってもやってはくれないし、無駄な事は無理に押しつけても利益がないと思いますので非常に簡略化して、とにかく装具を一生懸命つける事、そしてそれを補うのは深呼吸と腹筋訓練である。これでよろしいと思います。

(3) 装具装用上の注意

つけ方の基本は、綿の下着(ナイロンは駄目)をつけて装具をつけることです。日本の夏は暑いですから、パッドの所に湿疹がよくできます。できた場合はできるだけ、乾燥させるようにし、軟膏は塗らず、シッカロール等のパウダーをつけます。どうしても傷とかになった場合は軟膏をつけなければいけませんし、程度がひどい場合には、やむをえず、しばらく装具を休むという事もありますが、そのような場合はごくまれです。装具をつけての日常生活はどうか、と言いますと、日常生活でこれをしてはいけない、あれをしてはいけないという事は一切ありません。装具をつけてどんどん体操をする、つけていてはどうしても出来ない体操の場合の時だけはずす、という事です。これをやったら悪くなるというのは一切ありません。装具をつけているという事がいい事であり、それを補うのが体操療法なんだという認識をしっかり持って、それを基本に行動してください。日常生活の中で一番困るのは和式トイレです。学校ではまだ和式トイレの所があります。本来、装具を効かせるには下の部分をもう少し良くしたいのですが、日本ではそういう理由から外国でされているのと同じようには作れないと、妥協している面があります。

(4) 装具療法の限界

 私が側弯症外来を始めて21年たちました。装具療法の治療成績を調べたところ、装具療法を受けている方は全員30゜以上でした。そのうちの80%以上が進行していません。そうすると30゜以上では何もしなかったら、すなわち自然経過では75%が進行するのですから、進行が20%以下だったと言う事は装具療法が、効果があったといえます。治療成績はだいたい70%が改善、ないしは不変だったという所に落ち着いています。装具をきちんと装用していたにも拘らず側弯進行が問題となったのは、それでも20%~25%ありました。

 18歳で装具が終了した後、経過観察だけとなってから10年たった時にどうかというような調査はまだ私の所では、期間が短いので行われていないのですが、米国での調査結果では、装具で矯正されるのは良くて2~3゜、すなわち35゜で始まったならば、32~33゜に矯正されるのが一番良い結果であり、だいたいがスタートラインに戻っているという事が示されています.そうすると25゜で始めて25゜でとめるほうが、30゜で始めて30゜で止めるより良いのではないかとも言えますが、それは肋骨変形と総合的に考えて行く事だと思います。側弯が25゜でも30゜でも変わりません。

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