脊柱側弯症の話 - 装具治療が必要な方々のために (B-12 側弯と腰痛)
あやめの会 会報2号(平成5年発行)に掲載された寄稿より
東京都済生会中央病院 整形外科部長 鈴木信正
B-12 側弯と腰痛
腰痛についてのフィールドワークをすると全人口の30%は腰痛持ちです。
発病の1番 多いのは、20代です。ですから、20代を過ぎれば、腰が痛くなってくる、背中が痛い、肩凝りがする、というのは、人間として生まれたからに は避けがたいと言えます。そうして整形外科を訪れた時に、問題は、それは側弯があるから痛いんだよ、と言われてしまう事です。これは間違いです。側弯があ るから痛いと言う事は40歳未満ではほとんどありません。ただ真っ直ぐの人よりも、側弯がある人のほうが痛みの程度が強いとか、治療に長くかかるとか、治 療が複雑だとかの問題はありますが、側弯だから痛くなるとは言えません。
それは何故かというと側弯患者での腰痛の発生率も33%、先程 述べたようにフィールドワークでの腰痛の発生率も33%ですから、統計的に有意差はありま せん。すなわち側弯だから腰痛になるとは言えないことを意味しています。そういった場合には側弯をわかっている医師の所に治療に行かないと再びそこで、焼 けぼっくりに火をつけられて自分は側弯だからだと妙な悩みを持ってしまう方、手術までしたのにいまだにそう言っている方もいます。自分は側弯なのだという 事が潜在意識にこびりついて、非常に悩む、これは非常にバカバカしい事です。
手術をしたにしろ、装具療法をしたにしろ、成人したらも う、関係ないのだというふうに思って差支えありません。ただ、装具療法を受けた人では日常生活の 注意として、まだ側弯が完全に固まっているとは言えないので、年2回、身長を測るべきです。腰が痛くなったらそれは側弯のせいではなく、人間に生まれた証 拠だと考えていたださたいと思います。
装具療法終了後の予後はどうかといいますと、まず60歳まで、ないしは55歳までは問題はないで しょう。しかし、骨粗鬆症がでる頃からまた少しずつ進行 する恐れはあります。骨粗鬆症の程度や、その時の変化は個人差が非常に大きい物です。ですからその時にまたそれなりに考えれば良いのです。
要約しますと、側弯症の装具療法の実際的な問題として、不確定な要素が非常に多いので、現在解っている範囲でベストの事をするというわけです。そしてや はり、患者さん自身の努力というものが非常に必要な病気です。無事、装具療法が終わったあとも健康管理という意味で25歳までは定期検診をうけて、それ以 降は身長を測ることが基本です。それだけではなく、深呼吸をよくやる事、腹筋訓練をよくやる事、よく歩くという事、1日2キロ位歩くように心がける事、こ れらが側弯症に対してというよりも、身体全体の健康を管理するという意味で非常に良い事であり、腰痛予防につながる事です。
普段は側弯を意識する必要はなく、意識しないでそういう事をやるのだという事を20歳以前の時に確立しておくと、自分の健康の全体的な面でプラスになると思います。