脊柱側弯症の歴史と手術の実際 (C-4 側弯症の治療の実際)
あやめの会会報3号(平成8年発行)に掲載された寄稿より
脊柱側弯症の歴史と手術の実際
済生会横浜南部病院 整形外科部長 小野俊明
C-4 側弯症の治療の実際
経過観察と装具治療に関しては、会報の第1号の鈴木先生の話を参照して頂くことにして、今回は手術治療の実際的な事について触れておきます。
側弯症の手術法は大きく分け、脊椎固定術とそれ以外の手術に分かれます。脊椎固定術とは、弯曲した背骨を矯正し骨盤の一部から採取した骨を移植して固め る手術で、年齢が9才以上であれば大抵この手術法が選択されます。弯曲を効果的に矯正保持するには、前述したインストゥルメンテーション手術が併用されま す。さらに脊椎固定術は、胸部や腹部を切開し脊椎の前方部分を固定する「前方手術」、背中の真ん中を切開し後方部分を固定する「後方手術」および両方を一 緒に行う「前後合併手術」に分かれます。
紙面の都合もあり手術法の全てを説明できないため、ここでは思春期の特発性側弯症で最も一般的な後方からの脊椎固定術についてお話しします。同じ側弯症 でも、年齢、側弯の原因、脊柱の曲がり具合など一人一人違う訳ですから、これから述べる経過と異なる方も少なくない事を十分ご承知おき頂ければと思いま す。
(1) 入院前
側弯症の手術には、1600cc~2000ccの輸血の準備が必要とな ります。献血の血液には病原性ウイルスの混入を完全に防ぐことは不可能であり、7%程度の危険があるとされています。この危険を回避するため、手術前に自 分の血を貯めておく自己血貯血を行います。体重や血液の濃さなどで異なりますが、週に一度200cc~400ccの貯血を行います。入院後の貯血も含めて 6回程度の貯血が必要です。貯血中は早く血ができるように、鉄剤や造血作用のある薬の投与が必要です。
外来での検査には、レントゲンやモアレ撮影の他に、CT、MRI、呼吸機能検査などを行います。一部の検査は入院後に行うこともあります。
(2)入院から退院まで
手術の約2週間前に入院となります。入院後の検査は、血液検査、心電図、レントゲン検査、脊髄造影と造影後CT検査などを行います。自己血貯血は入院後も続行します。また、弯曲に柔軟性を持たせるためのコトレル牽引、呼吸訓練などを行います。
手術に要する時間は、麻酔の導入や体位の変換に1時間、手術に4~6時間、レントゲン撮影や麻酔の覚醒に1時間程度必要となります。手術時間は弯曲の硬さなど手術しないとわからない部分があることや麻酔の覚醒の具合などにより、個々の症例でかなり異なります。
手術後の痛み止めは十分使用しますので、心配しないでください。合併症の予防のために、術後は時々深呼吸をし、痛みのない範囲で軽く足を動かすことを忘 れないでください。手術をして2日目には起立し、3日目には歩行器で歩いてトイレに行きます。1週間以内に装具を採型し、完成したら装着します。順調に経 過すれば、術後4~5週間で退院となります。
(3)退院後
退院後2週間程して外来を受診し、診察で異常なければ、その後通学可能 です。その後は3~6ヶ月毎に外来受診し、レントゲンやモアレ撮影を行い経過を見ていきます。術後は通常の日常生活上の動きは全く問題ありませんが、術後 4ヶ月間は装具の装着が必要です。また、6ヶ月間は自転車に乗ることは禁止で、1年6ヶ月間は体育実技禁止です。