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脊柱側弯症の歴史と手術の実際

あやめの会会報3号(平成8年発行)に掲載された寄稿より

脊柱側弯症の歴史と手術の実際

 済生会横浜南部病院 整形外科部長 小野俊明

はじめに

 あやめの会が発足し早6年を経過し、本会誌も第3号発行となりましたが、今回あやめの会より原稿のご依頼を頂き、僭越ながら筆を取らせて頂くことになりました。

  この会報を読まれる方は、側弯症で治療中のご本人とそのご親族が殆どかと思いますが、皆様とも今後のことに少なからぬ不安を感じていることと思います。不 安が尽きない理由の一つは、脊柱側弯症と言う病名を耳にしたことがあるが、その疾患についての情報が少なくよく解らない、また周囲の人、民間療法師、医者 で、時には医者の間でも言うことが違うといった混乱があるためではないでしょうか。

 実際、脊柱側弯症の専門家は未だ少数である上に、我々専門家にもまだまだ解っていないことが沢山あります。例えば、側弯症の多くを占める特発性側弯症 (一般的に病気の原因が不明の時に「特発性」と言う病名を付ける)のはっきりした原因は未だに不明ですし、側弯の変形の程度が今後悪化するのかこのまま止 まるのかについても、ある程度確率的には解っているものの、個々の患者がどうなるのかの予測は大変難しいといったことがあります。しかしながら、側弯症の 病態の解明や治療法はここ4半世紀の間に飛躍的に進歩してきたことも事実です。

 脊柱側弯症とは

 脊柱側弯症については、鈴木信正先生が本会誌第1号で詳しく述べておられますので、ここでは簡単に要約しておきます。

  脊柱側弯症とは、いわゆる「背骨」が正面から見て側方に弯曲し、弓状、時にはS字状を呈する病気です。原因は、先天的に骨の形態異常があるもの、神経、筋 肉、結合組織の病気に伴うものなど一部は解っていますが、全体の約7割を占める「特発性側弯症」については未だ不明です。

  特発性側弯症では、一般に思春期(女性では初潮の前後2年位の間)に弯曲が増大する傾向があり、また弯曲の程度が大きければ大きい程悪化する確率が高いこ とが解っています。年齢が15才未満で側弯度が30度以上になると、約7割の人が進行します。進行し50度を越えると、体幹の変形が際立つだけでなく、心 臓や肺にも悪影響が生じます。

 前述したごとく、病気の原因が不明な現況では完全な予防法や根治的治療法がないため、早期発見、定期的診察、早期治療が最も重要です。姿勢矯正や運動療法、 民間療法などの効果がないことは既に確立した事実です。どうしてもと言うことであれば試してみることは自由ですが、そのことに固執し、私どもの病院への定 期的診察をおろそかにしたために、適切な治療時期を逸する患者が少なくないことは悲しむべきことであります。一部のマスコミの誤った報道や世間の無理解の 問題と同時に、私ども医療サイドの啓蒙が不十分であることを反省させられます。

 脊柱側弯症の歴史

 脊柱の変形について最も古い記載があるのは、ギリシャの名医 Hippocrates(B.C.460~377)の誓文集であり、同じくギリシャの医師Galen(A.D.131~201)が「側弯症」という言葉を 初めて使いました。「側弯症」を英語では"Scoliosis"と言いますが、この言葉は「弯曲」を意味するギリシャ語に由来しています。当時の治療は、 頭と足に紐を掛け牽引し矯正する方法が行われましたが、当然効果は一時的でしかなく予後は不良でした。

 この時代から15世紀までの間、側弯医療の進歩は殆どありません。16世紀になると、Ambrose Pare(1510~1590)が金属の鎧を利用したコルセットを初めて作成しました。しかしながら、一般的な治療は、牽引、運動療法、姿勢矯正が主体で あり良い治療成績は得られませんでした。車輪が付いた支柱で頭部を牽引しながら歩行する装置が用いられたこともありました。

 19世紀末になって側弯症にもやっと夜明けがやってきました。1894年にレントゲンが発明され、側弯の病因についての研究が急速に進歩しました。この 頃になると外科手術が可能となり、1914年にHibbsが側弯症に対して初めて脊柱固定術を行いましたが、当時の手術は骨の一部を壊し、固まるまでギブ ス固定を行うもので、手術手技が未熟であったことも影響し、手術の結果はあまり満足いくものではありませんでした。1941年に米国整形外科学会で行った 調査では、手術をした200人余りの内、約3割が偽関節(骨が固まらない状態)となり側弯の程度は手術前と同様に戻っていました。1945年Blount は、手術後の体幹固定用にMilwaukee装具を開発し、手術成績の向上に貢献しました。その後この装具は、良好な固定性故に手術以外の患者にも広く用 いられるようになりました。

  最近30年間の治療の進歩は劇的であり、Hippocratesの時代から20世紀前半までの進歩を越えると言って良い変化でした。 Goldstein, Moeらにより脊柱固定術の基本技術が確立され、1962年にはHarringtonが金属の棒を体内に埋め込むインストゥルメンテーション手術を開発し ました。その後もインストゥルメンテーション手術は次々と改良が加えられ、手術成績は飛躍的に向上し、現在の側弯症手術になくてはならいないものとなって います。同時に、側弯症の自然経過、病因、進行の予測、装具治療などについても数多くの有意義な研究報告がなされ、今日に至っています。

 側弯症の治療の実際

 経過観察と装具治療に関しては、会報の第1号の鈴木先生の話を参照して頂くことにして、今回は手術治療の実際的な事について触れておきます。

 側弯症の手術法は大きく分け、脊椎固定術とそれ以外の手術に分かれます。脊椎固定術とは、弯曲した背骨を矯正し骨盤の一部から採取した骨を移植して固め る手術で、年齢が9才以上であれば大抵この手術法が選択されます。弯曲を効果的に矯正保持するには、前述したインストゥルメンテーション手術が併用されま す。さらに脊椎固定術は、胸部や腹部を切開し脊椎の前方部分を固定する「前方手術」、背中の真ん中を切開し後方部分を固定する「後方手術」および両方を一 緒に行う「前後合併手術」に分かれます。

紙面の都合もあり手術法の全てを説明できないため、ここでは思春期の特発性側弯症で最も一般的な後方からの脊椎固定術についてお話しします。同じ側弯症 でも、年齢、側弯の原因、脊柱の曲がり具合など一人一人違う訳ですから、これから述べる経過と異なる方も少なくない事を十分ご承知おき頂ければと思いま す。

(1) 入院前

 側弯症の手術には、1600cc~2000ccの輸血の準備が必要とな ります。献血の血液には病原性ウイルスの混入を完全に防ぐことは不可能であり、7%程度の危険があるとされています。この危険を回避するため、手術前に自 分の血を貯めておく自己血貯血を行います。体重や血液の濃さなどで異なりますが、週に一度200cc~400ccの貯血を行います。入院後の貯血も含めて 6回程度の貯血が必要です。貯血中は早く血ができるように、鉄剤や造血作用のある薬の投与が必要です。

 外来での検査には、レントゲンやモアレ撮影の他に、CT、MRI、呼吸機能検査などを行います。一部の検査は入院後に行うこともあります。

(2)入院から退院まで

 手術の約2週間前に入院となります。入院後の検査は、血液検査、心電図、レントゲン検査、脊髄造影と造影後CT検査などを行います。自己血貯血は入院後も続行します。また、弯曲に柔軟性を持たせるためのコトレル牽引、呼吸訓練などを行います。

 手術に要する時間は、麻酔の導入や体位の変換に1時間、手術に4~6時間、レントゲン撮影や麻酔の覚醒に1時間程度必要となります。手術時間は弯曲の硬さなど手術しないとわからない部分があることや麻酔の覚醒の具合などにより、個々の症例でかなり異なります。

手術後の痛み止めは十分使用しますので、心配しないでください。合併症の予防のために、術後は時々深呼吸をし、痛みのない範囲で軽く足を動かすことを忘 れないでください。手術をして2日目には起立し、3日目には歩行器で歩いてトイレに行きます。1週間以内に装具を採型し、完成したら装着します。順調に経 過すれば、術後4~5週間で退院となります。

(3)退院後

 退院後2週間程して外来を受診し、診察で異常なければ、その後通学可能 です。その後は3~6ヶ月毎に外来受診し、レントゲンやモアレ撮影を行い経過を見ていきます。術後は通常の日常生活上の動きは全く問題ありませんが、術後 4ヶ月間は装具の装着が必要です。また、6ヶ月間は自転車に乗ることは禁止で、1年6ヶ月間は体育実技禁止です。

おわりに

 20度以下の軽度の側弯症では、あまり神経質にならず普段は病気の事を 忘れて結構ですが、定期の診察だけは絶対に忘れないで下さい。しかしながら、この会報を読まれている方は装具治療や手術治療が必要なお子さんやそのご両親 のほうが多いことと思います。学童期、思春期の多感な時期に長期に装具を装着したり、手術を受けたりしなければならないことは確かに辛く、忍耐のいること です。

 我々医療サイドでもできる限りの努力はしますが、ご両親はもとより、親戚、教職員、友人など、多くの時間を一緒に過ごす社会生活の場面においても十分な バックアップと理解がなければ、肉体的かつ精神的に満足の行く治療は行い難いものである事を最後に強調しておきたいと思います。

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